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ビジネスアナリシス標準のススメ (その6)

2011年4月18





 

5.要求(ITへの)を定義する(概要レベル)

 

先週、インタビューによりレベル3プロセスの現状の分析ができました。改善するべきプロセスなどが明確になってきましたので、それをどのように変革するべきかを考えていきます。ファシリテーションによりその改革案を導きます。

 

レベル3プロセスを分析しプロセス改革施策を検討しますが、その施策を次の5つの観点から検討します。

 -組織

 -業務ルール

 -プロセス・機能

 -人

 -情報・情報システム

 

例えば、先週の「引き合い・見積り」プロセス(レベル3)では、インタビューの結果

1.プロセスはあるが、システム化されていない(プロセスもしくは情報・情報システムの課題)

2.電話、書類には対応しているが、EDIには対応できていない(情報・情報システムの課題)

3.回答の承認基準が不明確(業務ルールの課題)

4.販売可能地域を知っている人と知らない人がばらついている(人の課題)

などと業務課題を抽出できたとします。

 

すると、1と2の課題から、「EDIに対応できるシステム化」というプロセス改革要求(情報・情報システム)が出てきます。

同様に、3の課題から回答の承認基準を明確にする」(業務ルール)、4の課題からは「販売可能地域を販売員に徹底する」(人の知識・スキル)というプロセス改革要求がでてきます。

 

このようにして、上記プロセス改革区分に従って、レベル3プロセスを設計していくことができます。

それを以下のようなフォーマット(エクセルシート)にまとめていきます。



マネジメント&ERPインテグレーション資料より

 

ここの、プロセス改革区分の「組織」「業務ルール」「プロセス」「人」「情報システム」などが重要です。

 

BABOK®ガイドには、「要求」に関して、次のように書かれています。

「ある企業の過去、現在、未来における条件または能力のほかに、組織構造、役割、プロセス、ポリシー、ルール、情報システムなどの記述も要求に含まれる。」(第1章 1.3.3要求)

ですから、この方法論で扱う要求はBABOKで定義しているものと同じ、幅広い要求であることがわかります。このビジネスアナリシス方法論がBABOK準拠といえる一つの重要な根拠です。

 

ともすると、ITシステムへの要求のみを考えている読者がいるかもしれませんが、ビジネスアナリシス(BABOK®を含めて)が扱う要求はITシステム以外のことが多いことを理解してください。

 

ソリューションも同様です。BABOK®においてソリューションは「組織の目的、目標を実現するためのあらゆる変革」を意味します。そして、ソリューションはソリューションコンポーネントとして、ITシステム、組織変更、ビジネスプロセス、ビジネスルール、人(役割)、その他を組み合わせたものであることを思い出してください。ITシステムはソリューションコンポーネントの一つでしかありません。

 

ですから要求(BABOK®で定義している広い意味)をソリューションとして具体的に実現するためには、各々の要求をどのソリューションコンポーネントが実装するのか決める必要があります。何でもかんでもITシステム(例えばERP)に実装すればよいというものではありません。ビジネスルールを変えれば済むこともあるからです。BABOK®でこの作業を規定しているのが「7.2要求を割り当てる」タスクです。

 

この方法論ではレベル3プロセスにおいて、要求を5つのプロセス改革区分(ソリューションコンポーネントに対応)に分類することによってこのタスクを実現しています。わりあい早いタイミングで要求をソリューションコンポーネントに割り当てています。

 

言葉だけではわかりにくいので、サプライチェーンマネジメントの例をご覧ください。



マネジメント&ERPインテグレーション資料より

 

在庫削減、混流生産、グローバルSCMという3つのレベル2プロセスを考えてみます。

在庫削減には以下のような5つのレベル3プロセス改革要求があります。 

 -部品の共通化  

 -検査工程の短縮

 -仕入先数の削減 

 -受注窓口の20H365日体制

 -生産計画の週次化

 

混流生産では4つ、グローバルSCMでも4つのレベル3プロセス改革要求があります(上図の左側を参照)。

 

これらレベル3プロセス改革要求を右側の5つのソリューションコンポーネントに割り当てていることになります。

(サプライチェーンには生産というプロセスがあり、そのソリューションコンポーネントには設備なども含まれます)。

 

読者はITシステムに関する「要求」をイメージしているかもしれません。

BABOK®および、このビジネスアナリシス方法論で扱う「要求」はこのように幅の広いものであることをご理解ください。

 

いずれにしても、このようにしてITシステムへの要求(概要レベル)をまとめていきます。

 

このあと、次のレベル4ITシステムへの具体的な要求(詳細レベル)を作成していきます。

 

次回までお待ちください。