2012年6月6日
2.システム企画フェーズ
BABOKでは、すべての要求はビジネス要求またはビジネスケースに整合しないといけません。
システム企画フェーズでは、要求を扱うための準備を行います。要求の出し手(ステークホルダー)の観点で、プロジェクトの目的と背景、前提と制約を明確化し、関係者の承諾を得ることを目的とします。
このフェーズでの準備とその合意により、プロジェクトの目標(プロジェクト憲章)が設定され、全ての要求の根拠として利用されます。
また、要求を収集するための情報源(ビジネス環境)を識別し、対象業務についての調査・理解を進めることも本フェーズの活動として実施されます。

例えば、最初のアクティビティ「プロジェクトの背景と目的の理解」では
次のタスクがあります。
タスク:ビジネス上の問題・機会の理解
タスク:プロジェクトの背景と目的の文書化
「ビジネス上の問題・機会の理解」では、BABOKの知識エリア「エンタープライズアナリシス」の「ビジネスニーズを定義する」タスクの内容を確認し理解することです。
つまり、「ビジネスケース」にビジネスニーズとして記述してあることを確認します。それをプロジェクトチーム全員で理解し合意するプロセス(タスク)になります。
次のタスク「プロジェクトの背景と目的の文書化」では、まず、ビジネスケースに書かれている「ビジネスニーズ」を記述します。プロジェクトの背景として記述するのは、プロジェクト立ち上げの原因となったビジネス問題、またはビジネス機会です。
BABOKによるとビジネス問題は、その問題が組織内に及ぼしている悪影響で、例えば、
-潜在的な収益の損失
-非効率性
-顧客の不満
-従業員のモラルの低下
などです。
また、ビジネス機会は、候補となるソリューションから期待される便益で、例えば
-収益増加
-コスト削減
-市場シェア拡大
などです。(BABOKガイドより引用)。
プロジェクトの存在理由を示すものなので極めて重要です。
つづいて、「プロジェクトの(本当の)目的」を記述します。
プロジェクトを実施する根拠を簡潔に表現します。
「プロジェクトによって何がもたらされるのか」
プロジェクトを実施した場合の利点を明確にします。
BABOKの「ビジネスニーズを定義する」タスクの要素「期待される結果」の例では、
-新しいプロダクトやサービスなどの新しい能力を開発し、競争上の不利に対処する。
あるいは、競争上の優位を創出する。
-売り上げ増加やコスト削減によって、収益を向上する。
-顧客満足度を向上する。
-従業員の満足度を向上する。
-新たな規制へのコンプライアンスを確保する。
-安全性を向上する。
-プロダクトやサービスのリードタイムを短縮する。
などです。(BABOKガイドより引用)。
さらに、目的を具体的な目標にブレークすることも大切です。
BABOKでもスマート(SMART)な目標を推奨しています。SMARTととは、以下の5項目です。
-具体的(Specific)
-測定可能(Measurable)
-達成可能(Achievable)
-関連性(Relevant)
-有限時間(Time-bounded)
ビジネスアナリシスの研修を実施していて痛感することは、プロジェクトの本当の目的を知らないままプロジェクトを行っている受講者が大変多いことです。プロジェクトのQCD(品質、コスト、納期)は管理していても、本当の目的、例えば
-プロジェクトによるビジネスの売上金額(増加額)
-ビジネスの利益(増)
-新製品やサービスの提供による売り上げ・利益
-顧客満足度の向上(具体的な指数)
などを知らない(知らされていない)まま、プロジェクトを実施しているのが実情のようです。
つづいて、次のような質問をしてみます。
「もしプロジェクトの本当の目的を知っていたら、あなたの仕事のやり方は変わるでしょうか。どのように変わりますか?」
これには、ポジティブな回答をする人が多く、ほっとします。たとえば、
「本当の目的に沿った、結果の出るような仕事をするようにしたい。」
現実のITプロジェクトにおいて、BABOKのエンタープライズアナリシスの知識エリアのタスクがすべて実施されているとは限りません。ビジネスケースが存在しないままプロジェクトがスタートすることも珍しくありません。ビジネスケースの代わりに稟議書が使われる場合が多いと思います、その稟議書の内容はビジネス要求や投資の正当性を明確にするNPVなどは記述されていないものもあるようです。
  

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