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スキル標準成熟度モデル(SMM: Skill Standard Maturity Model)Ver 0.1
               (その2)


レベル2の特徴です。

    CMMレベル2(管理された)に相当

    個別のプロセスが定義されていて、プロセス内ではPDCAが回っている

    スキル標準(ITSS/ETSS)をそのまま活用している(カスタマイズはしていない)

    フィードバック面接(Option)を実施

    新人メンター制度

 

 

 

レベル2のプロセスを紹介します。SMM(スキル標準成熟度モデル)ではCMM同様にプロセスが非常に大切です。人材育成はプロセスのPDCAを回すことにより改善ができます。


ビジネス戦略/
ビジネス効果
人材像/
GAP分析
教育体系/
キャリア計画
レベル認定 組織文化
その他
レベルU 【ビジネス戦略作成】 【人材像作成】

【GAP分析】

【フィードバック面接】
【組織トレーニング】

【新人メンタリング】

【社内認定】

(社内コミュニケーション)

(MBO)

注)個別プロセスが確立されている
(Managed)



ビジネス分野:

【ビジネス戦略作成】

いまだに多くのIT企業では、ビジネス戦略をもっていませんが、ビジネス戦略が必要です。




 

「マクロ環境」、「外部環境」、「内部環境」、それに自社の「ミッション・ビジョン」を入力として、【ビジネス戦略作成】プロセスがあります。プロセスのOutputが「戦略とCSFCritical Success Factors)」です。

レベル2ですから、簡単なプロセス(最小限)にしてあります。もう少ししっかりした戦略作成のプロセスなら、尚よいでしょう。

何らかのビジネス戦略を持つ必要があります。現在お持ちでないなら、これから作成してみたらいかがでしょうか。

 

 

人材像/GAP 分野

4つのプロセスからなります。「人材像(キャリアモデル)作成」、「エンジニアのマッピング」、「GAP分析」、「フィードバック面接」です。

【人材像(キャリアモデル)作成】

既成(ITSS/ETSS)のキャリアモデルをそのまま使用しています。カスタマイズをしていません。ですからこのプロセスへの入力はスキル標準(ITSS/ETSS)そのものです。


そして、キャリアモデルに現状の人材をマッピングします。

その人材のキャリアに対して、診断ツールでの診断です。

 

GAP分析】

いくつかの診断ツールが市販されています。おのおの特徴がありますから、適切なものを選んで使用する必要があります。レベル1で使用したのと同じものである必要はありません。目的に応じて選択する必要があります。

レベル2GAP分析はSSI-ITSSのようなスキルインベントリーツールの方が尚良いと思います。

OutputGAPはツールに依存します。具体的なスキルレベル(小項目)での過不足までGAPとして得られるもの(例:SSI-TSS)もあれば、中項目もしくは大項目までのものまでさまざまです。診断の次の工程(個人別教育計画の作成)がしやすいものを選択する必要があります。

レベル3でのGAPは具体的スキル(小項目)まで必要です。

 

【フィードバック面接(Option)】

これはOptionですが、今まで教育をあまりしてこなかった組織にとっては必要です。

急に教育体系を作成し実施しようとしても、エンジニアは「多忙」を理由に参加してくれない可能性があります。また、エンジニアの上司の理解が不足していては、参加したくてもなかなか参加できません。参加を促すためには上司の理解が不可欠です。上司トレーニングを兼ねてフィードバックの面接を行い、どの教育に参加するか合意することが重要になります。

大手企業ではすでに、立派な教育体系ができていて、「・・・ユニバーシティ」なる組織まである企業もあります。このような教育インフラの整っている企業では、このフィードバック面接はおそらく要らないでしょう。その意味でOptionにしてあります。

 

 

教育体系/キャリア計画 分野

4つのプロセスからなります。「教育体系作成」、「教育実施計画作成」、「フィードバック面接」、「教育の実施」です。


【組織トレーニング】

教育体系が作成されます。作成プロセスも確立しています。

プロセスへの入力は、開発プロセス、プロジェクトなどです。

プロセスからの出力: 教育体系です。

つづいて、【教育実施計画作成】 プロセスです。出力が「教育実施計画(書)」になります。

最後は、「教育実施計画(書)」と【フィードバック面接】の出力の「個人別教育計画」を入力とする、【教育実施】プロセスです。


続いて【新人メンター制度】のプロセスです。5つのプロセスがあります。

【メンター教育計画作成】は、新人に対するメンターの教育を計画します。それに基づき、メンターに教育を実施します。

新人配属後、メンターとの【マッチング】を実施します。マッチングの後実際の【メンタリング実施】プロセスです。最後に【フォローアップ】プロセスになります。

 

レベル認定 分野

【社内認定】


「社内プロフェッショナル認定」のプロセスです。IPA発行の「社内プロフェッショナル認定の手引き」を参照してください。

 

 

組織文化/その他 分野

プロセスではありませんが、組織文化、人事制度などスキル標準を導入するために必要な部分があります。

 

(社内コミュニケーション)

スキル標準のような組織改革を受け入れてもらうためには、組織と従業員との間の緊密なコミュニケーション(何でも言いあえて、協力できる文化)が不可欠です。これができていない組織では、スキル標準の導入が困難です。トップダウンで何でも決めてしまう組織では、表面的な導入はできても、長続きしないでしょう。ある意味最も重要な要素です。プロセス以前の問題です。

 

MBO:目標による管理)

MBOに限りませんが、業績評価がしっかりできていることが不可欠です。スキル標準(特にITSS)は能力評価ではありません、業績(実績)が必要です。これが人事制度として、定着しているとスムーズな導入が図られ、レベル認定の結果を業績評価にリンクすることも可能になります。 

逆にスキル標準を導入することにより業績評価制度にする事は大きな抵抗をもたらします。先に業績評価を確立するべきです。

ETSSの場合は、現時点では、評価制度とリンクするのは危険です。「ETSSキャリア基準」のいたるところに「※この情報は人材育成を目的に作成したものであり、キャリアレベルの評価用に作成したものではない」という注意書きがあります。作成者の意図はあくまで人材育成(教育用)を目的にしています。

 

 

レベル2の重点方策と課題

何といっても【組織トレーニング】を確立することです。トレーニングプロセスがないと始まりません。何をトレーニングするかを決めるのが、診断ツールによる【GAP分析】です。

そして、各プロセスでPDCAを回すこと(これが「管理すること」の意味です)。

レベル2では、まだ他のプロセスとの関連性は強くありません。ですから、ビジネス成果はまだ出しずらいところです。ポイントは早く次のレベルに進むことです。ここで立ち止まらないことが肝心です。

もし立ち止まってしまうと、以下のような問題が発生しがちです。以前のメルマガから再掲します。

 

レベル2の問題点はいくつかあります。代表的な物は次のとおりです。

1.             まだビジネスに貢献していない

2.             エンジニアの不満

3.             人事先行の問題

などです。

 

1.最初のビジネスへの効果です。

まだ、ビジネス戦略とリンクしていないため、ビジネスの結果とリンクしていません。人材をITSSのキャリアマップに無理やり当てはめているので、実際の実務とのかい離があります。必要な人材像がビジネス戦略と結びついていないため、ビジネス上の効果が見えません。

PMBOKなどにより、プロマネは育ってきていますが、変化するユーザー要求までは把握しきれず、赤字プロジェクトの解消にまでは至っていません。ITSSを導入すれば、ビジネスに効果があると思っていると、幻滅を味わうことになります。

しかし、まだビジネス戦略とスキル標準がリンクしていませんから仕方ないことです。早くリンクするように改善のサイクルを回しましょう。

 

2.エンジニアの不満:

ただでさえ開発業務で忙しいのに、資格取得、認定の準備で休む暇なく働いています。昇給・昇格の条件として、教育・研修を受講するのですが、受講しても座学が多く意味のないものが多く時間の無駄使い、と思われてしまっています。

会社とエンジニアとのコミュニケーション不足が主な要因です。

 

3.人事部門の先行の問題:

ビジネス上の意義、ビジョン(ITSS導入後のあるべき姿)が示されないまま導入し、いきなり処遇(給与体系)にリンクされてしまっているケースがあります。

要領よく認定されれば給与が上がりますが、まじめに実務をこなしていて、認定を受ける暇すらないエンジニアはレベルが上がらないままです。さらに人件費の総枠は一定のため、認定者に厚く配分されると、まじめなエンジニアの給与はむしろダウンしかねません。

これが、さらにエンジニアの不満を増加する要因になります。

労働組合がある場合、もめること必至です。

 

このレベルで最も困るのは、上記のような問題が発生すると、「ITSSは役に立たない」とか、「コストだけかかり効果がない」と早合点しがちなことです。

そして経産省が音頭を取っているのだからITSS導入に失敗したとは言えず、また元請けの要請のために、形だけ導入しています。しかし本音では早く辞めたいと思ってしまうことです。

 

経営者のリーダーシップが不十分だとこのレベルで止まってしまうケースが多いと思います。

経営者がリーダーシップをとっても、ビジネス戦略が明確でないとやはりこのレベルで止まると思います。スキル標準はただの道具ですから、ビジネスの目的がない所に道具だけ持ってきても使い道はありません。

いずれにしても、スキル標準導入の品質はまだ十分ではありません。

 

なお、経営者のリーダーシップが十分発揮されていて、ビジネス戦略も明快な場合、このレベル2は単なる通過点となります。PDCAを回して改善することで、早く次のレベル3に到達することができます。