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【ITスキル標準とテクノロジーライフサイクル】(その4)


 

2. ITスキル標準V3の課題

V3になったITスキル標準の課題は何でしょうか。大きな課題としては次のようなものだと思います。

−新試験制度の信頼度は大丈夫でしょうか

−正しいレベル認定ができるでしょうか

−企業内の認定(レベル5まで)は大丈夫でしょうか

−レベル67の認定方法

 

2.1 新試験制度の信頼度

まだ新試験制度のもとで試験が実施されていませんので、正確なことは分かりません。しかしいくつかの課題があると思います。例えば、

−試験の合格と実力は一致するのだろうか

−共通キャリアスキルフレームワークは機能するのだろうか

UISS/ETSSへの対応は本当に大丈夫だろうか

−ひいてはITSSに影響はでないだろうか

順を追って考えてみましょう。

 

2.1.1 試験の合格と実力(実務能力)

ITSSのレベル判定(レベル13)の手段として活用することになりましたが、その成果はまだ出ていません。そもそも試験結果と実務能力との相関関係はどの程度あるのでしょうか。正の相関があることは間違いありませんが、どの程度強い相関なのかが問題です。誰もが納得するほど強い相関があることを望みます。おそらくレベルによって相関の強さが異なります。レベルが高くなるほど、相関が弱くなるものだと思います。ポイントはレベル3での相関の強さが、どの程度納得できるものなのか、ということでしょう。

 

実務をしないまま試験合格を目的とする教育もあります。工業高校や工業専門学校の中には在学中に「基本情報技術者試験(FE)」の合格を目指すものもあります。学校教育の目標の一つとして資格取得は決して悪いことではありません。しかし何の実務経験のないまま、試験に合格したからと言って、ITスキル標準レベル2と判定しても良いものでしょうか。

 

V3では「各レベルに対応する情報処理技術者試験の合格をもって当該レベルの入り口に立ったと見做す」ことになりました。エントリー基準という言い方です。そして「合格者は...定義されている「達成度指標」の記述を認識し、そこで求められている「実務能力」を習得するため、要請されている経験を積むことが必要である。」とあります。それでは「基本情報技術者試験(FE)」に合格した高校生は具体的に何をしたらよいのでしょうか。

 

2.1.2 共通キャリアスキルフレームワーク

共通キャリアスキルフレームワークに関しての意見はすでに述べてありますので、ここでは多くを書きません。ポイントとしては、まだ(案)のものを既成事実のように試験制度で取り上げていることではないでしょうか。ITエンジニアとして本当に必要な能力を議論して定義する必要があります。 
【共通キャリアスキルフレームワークに関する意見】はこちらをクリックしてください。)

ITエンジニアに求められる能力が「知識」以外の比重が高くなったとき、知識しか測れない試験制度がどれだけ意味を持つものなのでしょうか。試験制度の信頼が大きな疑問となる可能性があります。



 

2.1.3 UISS/ETSSへの対応

はたしてUISSETSSが同じ試験制度の中でレベル判定の材料として機能するのでしょうか。UISSETSSについて考えてみましょう。

UISSは情報システム部門内の仕事のタスクを標準化したものです。ITSSとは異なりタスクの内容をきちんと整理してあり、非常にわかりやすいものです。一人の担当者が業務としてどのタスクの責任を持つかは各企業の裁量に任せられています(というより、雑多な仕事をしているエンジニアの仕事をタスクレベルで整理したもの)。キャリアフレームワークはサンプル(一例)として提示されている程度です。5人しかいない情報システム部門と100人以上いる情報システム部門のエンジニアのキャリア(職種)は標準化のしようもありません。業務のタスクを標準化することしかできないのです。ですからキャリアモデルはほとんど意味がなく、これを元に試験問題を作成したとしても、ユーザー企業の情報システム部門エンジニアはどれだけ興味を持つでしょうか。同じ「スキル標準」という言葉を使っていますが、その中身は大きく異なります。

 

ETSSはさらに複雑です。基本としてスキル基準が第一にあり、そこからキャリア基準が導かれます。ITSSとは順序が逆になっているのです。これはETの使用環境の多様性が大きく、自動車、家電製品、事務機器(コピー、複写機)、制御機器、通信、医療、....携帯電話、とありとあらゆるものにマイコンが組み込まれている現実があります。各々に使われている、CPUOS、周辺回路、...、いわゆる技術要素スキルが最も複雑です。技術の細部になれば、同じスキルを持つエンジニアは日本中でも数人〜数10人という世界です。このスキルレベルを試験で測ることにどこまで意味があるのでしょうか。

 

UISSETSSに関するこのような疑問にはまだ何も回答がありません。おそらく試験制度に組み入れるにはまだまだハードルが高いような気がします。

 

2.1.4 ITSSへの悪影響

UISSETSSの試験制度への組み込みが不調に終わると、「共通キャリアスキルフレームワーク」と「試験制度」の信頼度が下がり、ひいてはITSSにもその影響が出てくる可能性があると思います。

 

2.2 ITスキル標準は真の(正しい)レベル認定ができるか

試験で測れるのは基本的に知識のみです。技能の一部も試験で測れるかもしれませんが、現行のやり方で、全部を測ることは不可能です。まして「資質」(コミュニケーション能力など)は論外です。最近のITエンジニアに求められる能力(スキル)として知識はもちろんのこと、「技能」やコミュニケーション能力の比重が高くなっています。OECDの教育問題と共通です。

ITSSのスキル定義では、技能(問題解決、抽象化能力など)やヒューマンスキル(コミュニケーション、リーダーシップ、ネゴシエーション)の定義がきわめて貧弱です。

ITSSが正しいレベル判定方法と育成手段(パーソナルスキルを含めて)を提供しないと、今後のスキル標準の将来は危ういものになりかねません。

 

2.3 企業内認定(レベル5まで)は正しく行えるか

ITスキル標準が正しいレベル判定を提供するためにも、企業内でレベルの認定をおこなう必要があります。すべてを各企業に委ねてしまうと、各企業まちまちのレベルとなってしまう可能性が高いと思います(現実そうなっています)。企業間で整合のあるレベル認定方法が必要です。

 

2.4 レベル67の判定

これは課題です。まだ具体的な方法は何も提示されていませんが基本的には各プロフェッショナルコミュニティが提案することになると思います。早く具体案が出てくることを期待します。

 

2.5 ITスキル標準V3の課題のまとめ

ITスキル標準の課題として大きく4点、試験制度の信頼度、真のレベル判定、企業認定(レベル5まで)、レベル6,7の判定方法、についてまとめてみました。

 

この状況で、テクノロジーライフサイクルで次の「保守主義」はどんな反応をするのでしょうか。

 

 

【次ページに続く】


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