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BABOK®(ビジネスアナリシス知識体系) 解説(その12)

2009年615

 


5.5 知識エリア「ソリューションの診断と妥当性確認」とスキル標準





上の図で分かるように、この知識エリアのタスクは外部のソリューションとのやり取りが多いのが特徴です。ソリューションの設計・構築・テストはプロジェクトに不可欠のものですが、ビジネスアナリストの仕事(役割)ではないからです。





スキル標準で「ソリューションの設計、構築・テスト」に相当するのが、【教育計画作成】、【教育実施計画作成】、【キャリア面接】、【教育実施】です。スキル標準の導入では必要不可欠です。すでに実施している組織も多いです。

それでは、以下各タスクに関して、スキル標準との関係をみましょう。

 -提示ソリューションを診断する(5.5.1)

 -要求を割り当てる(5.5.2)

 -組織の受け入れ準備を診断する(5.5.3)

 -移行要求を定義する(5.5.4)

 -ソリューションの妥当性を確認する(5.5.5)

 -ソリューションのパフォーマンスを評価する

 

5.5.1 タスク「提示ソリューションを診断する」

BABOKのこのタスクでは、単一ソリューションを診断する場合と、複数の提示ソリューション(RFPに対して複数ベンダーがソリューションを提示)を比較する場合があります。スキル標準の場合も、自社ですべて導入する場合と、外部ベンダー(コンサル)を活用する場合があります。複数の外部ベンダーにRFPを提出し、複数の提案を受ける場合には有効になります。ただ、教育体系の作成を外部に委託できるかは大きな疑問です。

個別の教育プログラムの選択などには役に立つものではないでしょうか。

 

5.5.2 タスク「要求を割り当てる」




 

 図のように、スキル標準でも【教育体系の作成】プロセスでは、そのインプットとして「ビジネス戦略」「顧客満足度(教育ニーズ)」、【GAP分析】のアウトプットの「GAP」があることがお分かりだと思います。ただタスク(もしくはプロセス)として「要求を割り当てる」ことを明示してはいません。

また、インクリメンタルプロセス(アジャイルやスパイラルモデル)では、最初のリリース、2番目のリリース、3番目...でどの要求(仕様)をソリューションとして実現するかを決めます。スキル標準の場合も現実には初年度に実現する教育体系、2年目、3年目と強化していくことが多いと思います。そう考えると、タスクとして明示してはいませんが、近いことを実施しているのではないでしょうか。

 

5.5.3 タスク「組織の受け入れ準備を診断する」

 これは暗黙プロセスというより、スキル標準では抜けている部分です。

BABOK(R)の解説を紹介します。(筆者の訳文)

「新ソリューションが組織にもたらす効果と、組織がそれによる変化を受け入れる体制があるかどうかを診断する。 新ソリューションの影響を効果的にコミュニケーションし、必要な組織的変化を実践し、新ソリューション導入に必要な教育を特定する。」

「新ソリューション」を「スキル標準の導入」と置き換えてお読みください。まさに当てはまるのではないでしょうか。

BABOK(R)では診断までがビジネスアナリストの責任(役割)で、実施するのは別のステークホルダ(組織的変化の専門家や教育の専門家)となっています。しかしスキル標準では同じ人材が実施もするべきだと思います。(正確にはBABOK(R)でもBAがやってはいけないとまでは言っていません)

 

まさに、スキル標準で補強するべきものです。これがないから失敗する例があるようです。

タスクの要素をご紹介します。

 .1 文化的診断

 .2 運用もしくは技術的な診断

 .3 ステークホルダのインパクト分析

   -機能

-ロケーション

-業務(タスク)

   -懸案事項

 

特に「懸案事項」では仕事の変更があります。スキル標準では「職種」の変更に相当します。このような変更が組織や個人にとってどれだけ受け入れやすいものなのかを診断することは極めて重要ではないでしょうか。

ただ、このタスクの実施時期がソリューションの設計後(インプットに「ソリューション(設計)」があるため)、となっていますが、スキル標準の場合はもっと早期に行うべきことだと思います。

 

5.5.4 タスク「移行要求を定義する」

これもスキル標準では暗黙プロセスとなっていますが、タスク「組織の受け入れ準備を診断する」と同様に重要です。明示プロセスにする必要があります。これがないため失敗しているケースもあるのではないでしょうか。

タスクの要素です。

  .1 データ

  .2 オンゴーイング作業(On-going Work

  .3 組織的変化(Organizational Change

「データ」と「過渡的作業」は新システムへの移行要求として重要ですが、スキル標準では大きな意味はありません。重要なのは「組織的変化」です。これをうまくマネージする必要があります。組織のみならず、人材の仕事、責任、キャリアが変化するからです。これらをポジティブな変化として受け入れてもらえるようにマネージするのです。それを実施するのに必要な要求を定義するのがこのタスクになります。

さらに定義した要求を実行することが重要です。BABOK(R)では残念ながらタスクとしてありません。スキル標準ではそこまで行う必要があります。

 

5.5.5 

タスク「ソリューションの妥当性を確認する」「ソリューションのパフォーマンスを評価する」

スキル標準の「レベル認定プロセス」はBABOK(R)のタスク「ソリューションの妥当性を確認する」と次のタスク「ソリューションのパフォーマンスを評価する」に相当します。





図のように、レベル認定制度を策定し、人材育成の結果、望ましい職種/レベルに到達しているかを判定します。

 プロセス1~5の「制度設計」「制度公開」「認定申請」「書類審査」「面接審査」です。

このプロセスがBABOK(R)のタスク「ソリューションの妥当性を確認する」に相当します。ソリューションとしての「スキル標準の導入」により、ビジネス要求としての職種別にレベルの認定が実施されます。結果として、ビジネス要求通りの人材が育成できていればよし、そうでなければプロセス8の「是正プロセス」に進みます。

是正プロセスでは、教育体系へのフィードバックのみならず、ビジネス戦略の見直しへもフィードバックしていきます。

SMM(スキル標準成熟う度モデル)ではこれだけ具体的に明示しています。妥当性確認のみならず、是正処置まで考慮してありますので、BABOK(R)より進んでいるかもしれません。

 

さらに、プロセス7として「ROI策定」があり、BABOK(R)のタスク「ソリューションのパフォーマンスを評価する」に相当します。教育効果として投資効果を出します。