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                ETSS事始め
                  (その4)


 

今週のテーマは以下のとおりです。

3.1.3 スキル分布特性

3.2   開発技術スキルカテゴリ

3.3  管理技術スキルカテゴリ

3.4  スキル診断


3.1.3 スキル分布特性


耳慣れない言葉ですがETSS独特な世界です。それは開発する製品(携帯電話や自動車エンジン等)によって、必要とする技術要素が異なるからです。例えば、携帯電話のソフト開発では、情報処理、ユーザインタフェース、プラットフォーム等が重要です。一方、自動車エンジンのソフト開発では、計測・制御、プラットフォーム等です。ユーザインタフェースは携帯電話では極めて重要ですが、自動車エンジンのユーザインターフェースはアクセルペダルですから、きわめて単純です。プラットフォームは両者ともに重要ですが、その内容は大きく異なります。CPUチップ、OS、開発環境、等すべて異なる技術要素です。

ですから同じ組込みエンジニアでも、開発対象製品によって要求される技術スキルは大きく異なります。そのことをスキル分布特性と呼んでいます。ETSSでは極めて重要な概念です。後で解説するキャリア基準は、このスキル分布特性で定義されます(もう少しお待ちください)。

別の言い方をすると、従来の最大の問題点であった開発対象製品に依存する閉じた世界がこの部分に残っているということです。しかし、上の図のように比較することが可能になりましたので、エンジニアのキャリア計画には大いに役に立つようになったのではないでしょうか。従来は開発対象製品が異なると、「隣りの人は何する人ぞ」の状態だったと思います。スキル分布特性が見える化されたことだけでも大きな進歩だと思います。

(上図は分かりやすくするため、極端に分布特性を描いてあります。多少事実と異なるかも知れませんが、ご了解ください。)

 

 

3.2 開発技術スキルカテゴリ


ETSS Ver.1.2 より

ETSSの開発技術はいわゆるSLCPSystem Life Cycle Process)を組込みシステム用にアレンジしたものです。

これも第2階層まで標準化されていて、第3階層以降は開発対象製品によって各組織によれ設定できる構成になっています。携帯電話と自動車エンジンの開発プロセスの詳細な部分は異なりますが、第2階層までなら、共通のプロセスとして通用すると思います。開発環境の違いによるデバッグ方法などは第3階層以降に設定できますから。非常にわかりやすいモデルになっています。

ETSSでは、ESPR(組込みソフトウェア向け開発プロセスガイド)として立派な書籍として発行しています。これはITSSにはない、ETSSのすぐれたポイントです。

ESPRは以下のような構成です。

プロセスとして以下の4つの作業群をまとめています(第0階層)。

−システム・エンジニアリング・プロセス

−ソフトウェア・エンジニアリング・プロセス

−セーフティ・エンジニアリング・プロセス

−サポート・プロセス

 

以下、第1〜第3階層に相当する、アクティビティ、タスク、サブタスクが規定されています。

例えば、ソフトウェア・エンジニアリング・プロセスを構成するアクティビティ(第1階層)は次のとおりです。

−ソフトウェア要求定義

−ソフトウェア・方式設計

−ソフトウェア詳細設計

など

 

「ソフトウェア要求定義」アクティビティは以下のタスク(第2階層)から構成されています。

−ソフトウェア要求仕様書の作成

−ソフトウェア要求仕様の確認

 

「ソフトウェア要求仕様の確認」タスクは次のサブタスク(第3階層)で構成されています。

−ソフトウェア要求仕様書の確認

−内部確認レポートの作成

                           (以上、ESPR Ver.1.0より)

 

3.3 管理技術スキルカテゴリ


ETSS Ver.1.2 より

ご覧の通り、プロジェクトマネジメントは第2階層まではPMBOKと同じなので、ITSSとも親和性は高いと思います。開発技術同様に、「組込みソフトウェア向けプロジェクトマネジメントガイド」が書籍として発刊されていて、組込みソフト向けにより実用的にプロジェクトマネジメントがまとまっています。例えば、品質マネジメントではソフトウェア品質特性として、「機能性」「信頼性」「効率性」「使用性」「保守性」「移植性」(ISO/IEC9126規格)を具体的に挙げてありますから、よりわかりやすくまとまっています。

 

3.4 スキル診断について

ITSSでは様々なスキル診断ツールが用意されています。DS/ES、レベルチェッカー、その他多数存在します。ITSSユーザー協会のSSI-ITSSもあります。どの診断ツールもETSS対応をうたっていますが注意が必要です。開発技術スキルカテゴリと管理技術カテゴリは、開発対象製品に依存する部分が少ないので、あまり問題ないと思います。標準的な設問でスキルレベルの判定が可能だと思います。

問題になるのは技術要素カテゴリです。前述のように携帯電話ソフト開発のスキル分布特性と自動車エンジンソフト開発のスキル分布特性は大きく異なります。診断ツールの設問がスキル分布特性をどこまで反映しているかが疑問です。もし、自動車エンジンソフト開発のエンジニアが携帯電話ソフトのスキル分布特性を持つ診断ツールの設問に回答したらどういうことになるでしょうか。自動車エンジンソフトの高いスキルを持っていたとしても、分野が大きく異なる設問内容には満足できる回答ができるとは思えません。ITSSで言えば、異なる職種のスキル診断を受けるようなものです。とうてい納得できる判定結果が出るとは思えません。

診断ツール提供各社も苦労されていると思います。残念ながら、まだ顧客の数もあまり多くはないようなので、各社得意な分野が限られているようです。診断ツールの実績(導入数というより、どの分野の顧客で実施しているかが重要)を考慮して、自社のニーズに合致する診断ツールを使用されることをお勧めします。

あとは、カスタマイズ機能を使うことも考慮するのも良いと思います。診断ツールとしてカスタマイズ機能を持つものは多くありませんが、標準品で自社ニーズに合わない場合はお勧めです。