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 【ITSS対応パーソナルスキル研修】(その2)

 

 

2.    問題の真の原因

 問題の真の原因はどこにあるのでしょうか。まず、ITSSの定義が不明確なことがあげられます。そしてそれに対応する研修ベンダーの動向について考えてみます。

2.1 不明確なITSSの定義

 ITSSの定義がなぜ不明確なのでしょうか。その根本原因をスキルの定義にさかのぼって考えます。

2.1.1 タスクとスキル

ここでは、少し基本に戻ってスキルとは何か、タスクとは何かについてから説明します。少し難しいかもしれませんが、少し我慢してお読みいただければと思います。できるだけわかりやすく説明します。

 

経産省では、ITスキル標準の概念構造として、以下のように述べています。

ITスキル標準では、スキルの発揮度合い(能力の高さ)を「スキル熟達度」、パフォーマンスの発揮度合い(成果の大きさ)を「達成度指標」で示しています。また、個人の価値として、客観的に観察可能(表出的)な能力で、後天的に熟達できるスキルを対象にしています。これらのスキルは教育訓練で知識を得ることが可能で、主に経験を通した学習によって培われることも、これまで述べてきたとおりです。”

ここで重要なのはタスクやスキルは「観察可能」だということです。


                             ITスキル標準概説書より

 

2.1.2 スキルのタスク表現

近い概念ですが、スキルをタスク表現することが重要です。

具体的には、以下のようなことです。

 −意識、認識ではなく観察可能な動詞で、「〜することができる」と表す

 −「目的、対象」を明確にする

 −なるべくひとつの行動に絞る(複数の動詞を避ける)

 −簡潔に表現する

 

スキルをタスク表現することでその関係は一目瞭然になります。具体例をご覧ください。

 

タスク:プロジェクトスコープマネジメントを遂行する

スキル:プロジェクトスコープマネジメントを遂行することができる

スキル熟達度(レベル6):

 ピーク時の要員数50人以上500人未満、または年間契約5億円以上規模のプロジェクト責任者として、スコープ計画、スコープ定義、WBS作成、スコープ検証、スコープ・コントロールを実施し、プロジェクトを成功裡に遂行することができる。

註:スコープ計画、スコープ定義、WBS作成、などは知識というよりサブタスクという方が正確です。スキルの見地では、「スコープ計画を作成することができる」などとなります。これをサブスキル(下位のスキル)といいます。

 

少しうんざりされたかもしれませんね。無理もありません、ITスキル標準そのものがこのあたりの知識レベルが不十分のまま作成されてしまっているようです。

 

2.1.3 不明確なITSSのスキル定義

もう一度、コミュニケーションスキルの定義を見てみましょう。

2-Wayコミュニケーション(中項目:知識項目)

  −対話、インタビューの実施

  −意思疎通

  −コミュニケーション手法の活用と実践

  −効果的な話し方、聞き方の活用と実践

 

2-Wayコミュニケーションの内訳が書かれていますが、イメージがつきますか?「意思疎通」とは具体的にどのようなことでしょうか。英和辞典でCommunicationを引くと「意思の疎通」が出てきます。いったい何が言いたいのでしょうか。「コミュニケーション手法」の具体的内容は何でしょうか?観察可能な動詞はあまり見当たりませんね。

 

もうお分かりでしょう。パーソンナル分野のスキルをタスク表現していないから不明確なのです。他の分野(例:上記のプロジェクトスコープマネジメント)ではあまりこのようなことはありませんが、パーソナル分野に限ってはかなりご粗末な状態と言えます。ここを抜本的に変えなければ、良くなるすべはありません。大元の定義があいまいならば、その上に構築される研修コースにどれだけの意味があるでしょうか。

 

 

2.2 研修ベンダーの動向

それでは研修ベンダーの現状の取り組みを見てみましょう。

 

2.2.1 研修ベンダーの現状

多くの研修ベンダーはパーソナルスキルに関する既存コースを持っています。筆者が見る限りそれをそのままITSS対応(または準拠)コミュニケーションスキル(リーダーシップやネゴシエーションも同様)としてPR、宣伝に努めています。一社たりとも新たにITSS準拠(対応)コースを開発したところはないようです(筆者の見ている範囲内ですが)。そして、既存コースのケーススタディや演習をIT用に修正したり、一部追加しているものがほとんどです。

そして、従来から評判が良いという理由のみで、ITエンジニアにもパーソナルスキル研修を薦めているようです。

 

では、そのような既存のコースではITSSで要求されているパーソナルスキル(しっかり定義されていませんが)を習得することができるのでしょうか。かなり怪しいと思います。要求定義があいまいなままシステムを構築している状況とよく似ていると思います。もしくは、具体的要求を把握しないままパッケージソフトを押し売りしている状況といえるかもしれません。

 

多くのパーソナルスキル研修は、教育の効果測定(Kirkpatrickのレベル)を受講者の満足度(レベル1)で測定しているまでです。本当に役に立っているのでしょうか。エンジニアの行動(お客様とのやり取りなど)が変わって、業務内容に効果が現われているのか全く分からないままです。少なくとも教育の効果測定はレベル3(行動変容)までは測定するべきです。それなくしてパーソナル研修は意味がないのに等しいと思います。

 

 

2.2.2 研修ベンダーの言い分

研修ベンダー側にも言い分があるようです。スキルを定義していないので、実績のある自社のスキル定義を用いている、というものです。その有効性はお客様が認めているからそれで良いと思っているようです。









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