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新情報処理技術者試験制度へのコメント 【後編】

【前編】では「情報処理技術者試験 新制度」の最終版およびその制定プロセスに関して、批判的な意見を述べました。これからは少し冷静になって、今後どうするべきかを考えてみます。

 

まず、現在起きている現象です。

試験制度とスキル標準が統合されるということが話題になってから、ITSSの導入を見合わせている企業が目立ってきているようです。ITSSを導入してもどうせ試験結果でレベル認定できるならあわてて導入する必要はない、という様子眺めの態度です。そして、人材育成の改善活動がおろそかになってしまっています。

 

大変由々しき状況が現われてきているようです。すべての企業というわけではありませんが、組織改革が後退している感じです(決して大げさではありません)。

そのような企業は今後どうなってしまうのでしょうか。人材育成の主体性を自ら放棄し、試験制度の結果に委ねてしまう企業の行く末は大変不安だと思います。どの試験を受験するかは個人任せになります。コンサルが欲しいのにプロマネを受験する人ばかり、または、テクニカルスペシャリストが必要以上に多く資格を取得するなど、事業に必要となる人材ポートフォリオとは無関係なスキルを持つ人材が多くなってしまうのです。

その結果、自社の事業の方向性と整合性のない人材が増えてしまい、取得した資格の活かせる職種が社内になく、仕方なく外部市場に出て転職するエンジニアが続出する....。 社内に残っている人材のレベルはまだ低く、顧客の要求を満足できる人材は多く残っていない....。まるで悪夢のような状態になるおそれすらあります。

 

ではどうしたら良いのでしょうか。

回答は以下の「スキル標準成熟度モデル」です。

このメールマガジンで発表し、大変評判になっているモデルです。

まだご覧になっていない方は以下のWebページをご覧いただきたいと思います。

 

URL: http://www.kbmanagement.biz/sub3.html

 

情報処理技術者試験の結果のみ(レベル13)でレベル判定する組織の成熟度はどのレベルでしょうか。教育計画もなく試験結果のみでレベル判定するのであれば、成熟度レベルTといわざるを得ないと思います。現行のITSSレベル診断ツールの診断結果でレベル判定するのと何も変わりません。これでは上記のような、悪夢が現実化してしまいます。

成熟度レベルが低い(U以下)状態で試験制度の結果でレベル認定を行ってしまうと、企業の人材育成に対する主体性が改善されないと思います。そして下請けの仕事から脱却することができないまま、収益性がますます低下し、デススパイラルに落ち込んでいくことにならないでしょうか。

そして業務そのものが、インド、中国などのIT産業に奪われてしまうことになりかねません。

実は、ITスキル標準が制定された背景に、ITサービス産業の国際競争力の強化が含まれていたと思いますが、大変皮肉な結果になる恐れすらあります。

 

そのようにならないためにはどうしたら良いのでしょうか。それには、このスキル標準成熟度モデルの成熟度を上げることしかないと思います。

具体的には、事業戦略を明確にし、戦略実行できる人材を育成(または調達)することです。そのためには事業戦略(もしくは事業の課題を解決する方策)に必要な人材像(キャリア:職種)を定義しなければいけません。さらに事業に必要な人材ポートフォリオ(職種、レベルごとに必要な人数)を明確にし、現状とのGAPを明確にし、それを解消するための方策(教育体系、OJTなど)を策定、実施し、その結果を確認するためにレベルを認定することです。計画どおりに育成できていればよし、過不足があれば是正のためのアクション、すなわちPDCAのサイクルを回すことです。大事なことはマネジメントと社員(ITエンジニア)とが十分なコミュニケーションをとることです。事業戦略遂行に必要な人材像を公表し、エンジニアはそれに応募する。GAPが共有できれば、対策(教育計画)も共有できます。それに則ってお互いが努力(教育を実施・受講)すれば、企業の戦略と個人のキャリア計画が整合します。こうなっていれば試験結果を基にレベル判定しても大きな問題にはならずに済むのではないでしょうか。必要に応じて社内認定を追加してもよいと思います。レベル4以上の人材は当然ながら社内認定が必要になります。

ここまでできれば成熟度はレベルVになりますから、すこしずつビジネス上の結果として企業の競争力の強化につながっていきます。多くの組織が早くレベルV以上になっていただきたいと切に願います。

 

この「スキル標準成熟度モデル」は、まだ極めてプリミティブなレベルです。これからモデルの改善に努めます。具体的には、ピープルCMMの要素を取り入れていく予定です。ピープルCMMはカーネギーメロン大学が発表している、数多くのCMMモデルの一つで、人的組織における成熟度モデルです。ただし、フルセットは600ページにも及ぶ膨大なもので、22ものプロセス領域があり、その全てを実施することは、あまり現実的ではないと思います(現時点での清水の意見)。ソフトウェアCMMCMMIでレベル5を達成している組織であれば、可能だとは思いますが、そうでない普通の組織にとっては非常に負担が大きいものになると思います。手段であるはずのものが目的になりかねません。ですから、ピープルCMMのサブセットをITSS等のスキル標準プラスアルファで構築していくような形を考えています。

 

スキル標準成熟度モデルにご興味、またはご意見のある方がいらっしゃれば、どんなものでも歓迎いたしますので、ご連絡ください。



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